2015年07月23日

働き蟻、働いたばかりに

せっせと餌を運ぶ蟻の行列を見て「暑いのに頑張ってるなあ」なんて思っちゃったもんだから、その餌がアリの巣コロリだとわかった瞬間僕はその場にしゃがんだまましばらく動けなくなってしまった。
助けなきゃ、とか、ひどいことを、なんて一瞬頭によぎって、既にアリの巣には充分過ぎるほどのアリの巣コロリが運び込まれているだろうしそもそも、僕だって家に蟻が出たら同じことをすると思い直した。蟻に肩入れするなんて暑いからかなあなんて頭の悪い考えを夏のせいにして、買ったばかりのコンバットが入った買い物袋を地面に置いてまた蟻の行列を眺めた。
「ありさん」という声に顔をあげると、服ばかり小綺麗な母親に連れられた服ばかりかわいい女の子が僕の足元を指差していた。ありさんではなく僕と目が合いすぐに逸らした母親は、しきりにありさん、ありさんと繰り返す女の子に「そうね、蟻さんね」と曖昧に返事をし、ぼんやりした表情で僕の横を通り過ぎていった。
いつの間にか一匹の蟻が地面に置いた買い物袋の上をうろうろしていた。それを摘まんで遠くに投げると、なんだかひどく満足してしまって、僕はその場をあとにした。
posted by 沈ゆうこ at 23:57| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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